Dawn



寒さに凍えて目が覚めた。
…寒いはずなんてないのに。ここは暖かな部屋で…僕はシーツに包まっている。それなのに。

「どうか、したのか」
傍らから降ってくる、声。
起きがけの滲む視界でもすぐに分る、月光を映したかのような…銀髪。
「みか…な、ぎ…?」
声が掠れて上手く言えなかった。どうして、と思う間もなく御神薙に問われた。
「何故、泣いている…?」
「な…」
泣いてなんかいないよ。
そう言いたかったはずなのに、言葉が続かなかった。
再び視界がぼやけ、瞬きをする度に新しい涙が頬を伝う。

「…暁人」
その声色に自分を案じている気配を感じて、枕に沈めていた顔を上げる。そっと、御神薙が暁人に触れてくる。指先が、ためらいがちに涙の跡をたどる…。
その仕種に少し落ち着いたのか、暁人は小さな声で語り始めた。
「…夢を見た。…君の」
「俺の?」
「うん…」

そこは暗い場所だった。

止まること無く、雪が降る。
腕に。肩に。髪に。
積もる雪はそれでも体温で溶け…雪より冷たい雫となって頬を伝っていく。

暗闇に立つ少年がふと、顔を天に向けた。
…御神薙だった。

雪は先程よりもっと激しくなり、濡れた髪を凍らせるかのような風が吹き付ける。
それでも。
彼は立ちつづける。
面を天に向け、待っている。

…あの魂を。

この世にただ一つだけの、魂を。

この雪は…涙だ。
そして風は声を上げて泣くことも許されなくなった彼の、慟哭。

『彼方は、必ず俺が助けるから』

どうか…どうか、応えて。
彼方の心はまだ、傍に在ると。

「僕は…僕は君の心に、応えられていないんじゃないのかな…」
想像することも出来ないような長い時間。御神薙はたった一人で待ち続け、呼び続けた。…この自分の魂を。
先の見えない時間と願いと闘いと…。
それらに報いるには自分は何をすれば良い?

ふ、と御神薙が微笑んだ。暁人の前でしか見せない優しい表情だ。
「お前が、それを気に病む必要はない」
「でも…っ」
「…お前は俺に応えてくれた。お前がここに在る…それだけで良い」
「御神薙…」
…願いは最初からたった一つだった。これ以上の望みはない、と。

冷たい雪も、いつかは止む時が来る。
「…ありがとう……」
窓の外には薄紅色の朝焼けが広がっていた。